有機硫黄化合物の硫黄原子は様々な酸化状態をとり、分子の物理的・化学的性質に影響を与えます。そのため、有機硫黄化合物は、天然物、医薬品、高分子樹脂、有機電子材料など幅広い応用がなされています。一方で、これらの多様な酸化度を制御することが難しいため、有機硫黄化合物の選択的な合成には精密な反応制御やプロセス設計が必要でした。
今回、淺原時泰准教授と先導的学際研究機構の大久保敬教授、板橋勇輝特任助教、高知工科大学の西脇永敏教授らの研究グループは、酸化剤として古くから知られる亜塩素酸イオンに着目し、有機溶媒でも使用可能なアンモニウム塩（亜塩素酸テトラブチルアンモニウム：Bu4NClO2）を新たに合成しました。本酸化試薬は従来のナトリウム塩と比較して、有機溶媒に溶解しやすく、その反応制御が容易であることから、スルフィドから選択的にスルホキシドを合成する酸化剤として利用できることを明らかにしました。金属試薬や過酸化物などを用いずに高選択的な酸化を実現できたことから、環境負荷を抑制したファインケミカル、医薬品合成へと繋がることが期待されます。

研究成果は、欧州の化学論文誌「 Chemistry – A European Journal 」に2025年1月7日（オンライン公開）に掲載され、Inside front Coverに採用されました。

雑誌名：Chemistry – A European Journal
論文名： Tetrabutylammonium Chlorite as an Efficient Oxidant for Controlled Oxidation of Sulfides to Sulfoxides
著者： Yuki Itabashi, Shuto Ogata, Yusuke Shimada, Minato Kondo, Nagatoshi Nishiwaki, Tsuyoshi Inoue, Haruyasu Asahara, and Kei Ohkubo