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2025/12/03
研究
【論文掲載】再生適応学分野(分野主任 深田 宗一朗教授) 張 礫丹特任研究員らの論文がNature Communications に掲載されました。
運動は、健康を守るうえで最も安全かつ効果的な手段であり、その免疫強化・認知機能低下の抑制・抗老化作用といった多様な恩恵の分子基盤も、近年急速に明らかになりつつあります。これら全身的な効果は、運動によって血中に放出される「エクソカイン」と呼ばれる液性因子が担っています。一方、筋肉固有の幹細胞であるサテライト細胞の増殖は、運動した筋だけに限定されるという特徴があります。従来は、運動による“損傷”がサテライト細胞を活性化すると考えられてきました。しかし、私たちはこれまでに、損傷ではなく“物理的刺激”こそがサテライト細胞増殖の主要因であることを明らかにしてきました(eLife 2019, Cell Stem Cell 2022, Cell Rep 2024)。とはいえ、エクソカインの中にもサテライト細胞増殖を促す因子が存在するにもかかわらず、なぜ「使った筋肉だけ」で細胞が増えるのか、その仕組みは説明できていませんでした。
今回の研究では、回転ケージによる自発運動モデルを用い、サテライト細胞が増える筋(ヒラメ筋・足底筋)と増えない筋(前脛骨筋・長趾伸筋)の違いを精密に解析しました。その結果、以下の4つの重要な発見に至りました。
本研究の4つの主要成果
1. サテライト細胞を“眠らせる”Calcitonin receptor(CalcR)シグナルが、運動による物理的負荷によって抑制されることを発見
2. サテライト細胞特異的CalcR欠損マウス(CalcR-cKO)では、通常は増えない前脛骨筋・長趾伸筋でも運動によりサテライト細胞が増殖
3. 運動させたマウスの血液(エクソカイン)を非運動のCalcR-cKOマウスに投与すると、運動していないにもかかわらず“全身の”サテライト細胞が一斉に増殖
4. マイオカインの中でもIL-6が鍵であり、
・IL-6が誘導するYAP Tyr357リン酸化
・CalcR抑制に伴うYAP Ser127脱リン酸化
この2つが同時に起こることで、サテライト細胞増殖が引き起こされる仕組みを解明
これらの成果は、「運動も損傷もない条件で、全身のサテライト細胞を増殖させることが可能である」ことを世界で初めて示した研究です。さらに、筋再生とは異なる新たなサテライト細胞制御機構として、私たちは 「非再生性マイオジェネシス」という新概念を提唱しました。
本研究は、重慶医科大学、九州大学、北海道大学、広島大学、早稲田大学との国際共同研究として実施されました。
本研究成果は、「Nature Communications」に、11月26日(水)に公開されました。
論文名: Calcitonin receptor downregulation and exercise-conditioned blood enable systemic muscle stem cell proliferation regardless of loading
雑誌名: Nature Communications
著者名:Lidan Zhang, Takayuki Kaji, Ayasa Nakamura, Nagomu Maesawa, Kanako Iwamori, Jiayao Xu, Yilin Liu, Akiyoshi Uezumi, Daisuke Kamimura, Masaaki Murakami, Atsushi Kubo, Takashi Yamada, Takayuki Akimoto, So-ichiro Fukada
DOI:10.1038/s41467-025-65684-1.







