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2021/08/05
研究
【論文掲載】薬品製造化学分野 井川貴詞准教授らが、弱い引力を巧みに操って『らせん分子』の合成に成功しました。
吸盤を持たないヤモリが、なぜ壁や窓ガラスを這い歩くことができるのか,考えたことがありますか?
ヤモリの足の裏と、壁やガラスとの間には不思議な『引力』が働いているのです。我々科学者は,この種の『引力』のことを,『ロンドン分散力』と呼びます。高校の教科書には『ファンデルワールス力』と書かれていまることが多いですね。
さて,『ロンドン分散力』は水素結合などに比べると非常に弱く,化学反応において,2つの分子を引き付ける効果は極めて小さいと考えられてきました。この度,井川貴詞准教授(現在は岐阜薬科大学に所属),赤井周司教授らのグループは,この『ロンドン分散力』が,複雑な分子の化学合成に効果を発揮することを発見しました。その結果,ベンゼン環が繋がったユニットAを2分子結合させて,らせん分子Bを化学合成することに世界で初めて成功しました(図1)。この特異ならせん状構造は,新規触媒や医薬品の開発につながる可能性を秘めています。
化学反応で2つの分子を結合させる際には,結合の方向を一方に制御する必要があります。しかし,必ずしも容易ではありません。本研究の成果は,『ロンドン分散力』が有用なツールになることを示唆しており,化学界で大きな注目を集めています。本論文は,化学系トップジャーナルの一つであるJournal of the American Chemical Society(インパクトファクター 15.4)に掲載され,また同誌の表紙を飾りました(右図)。
なお,ヤモリの足の裏の仕組みについては,K. Autumnら,Nature 2000, 405, 681–685をご参照ください。
論文情報
雑誌名: Journal of the American Chemical Society
論文名: Could London Dispersion Force Control Regioselective (2 + 2) Cyclodimerizations of Benzynes? YES: Application to the Synthesis of Helical Biphenylenes
著者: Takashi Ikawa, Yuta Yamamoto, Akito Heguri, Yutaka Fukumoto, Tomonari Murakami, Akira Takagi, Yuto Masuda, Kenzo Yahata, Hiroshi Aoyama, Yasuteru Shigeta, Hiroaki Tokiwa, and Shuji Akai
巻号年:143巻,28号,2021年
ページ:10853–10859
DOI番号: 10.1021/jacs.1c05434