近年、組織浸透性の向上などの特徴的機能により、ナノマテリアル（NM：粒子径が100 nm以下に制御された微粒子）の利用が拡大しています。その汎用性の高さも踏まえると、老若男女を問わず意図せぬ曝露を避け得ない一方で、NM曝露による予期せぬ生体応答の誘発が危惧されています。そこで我々は、主要NMの一種である非晶質ナノシリカについて、妊娠維持に必須の器官である胎盤に着目し、妊娠期におけるハザード同定とその機序解明を試みました。その結果、粒子径10 nmの非晶質ナノシリカ（nSP10）曝露によって、絨毛外栄養膜細胞において過剰な炎症応答の誘発や細胞遊走の抑制が認められることが明らかとなりました。また、これら応答との関与が知られているNF-κBについて、nSP10曝露による核移行の増強が示唆される結果が得られました。以上より、安全かつ有用なNMの開発に向けたナノ安全科学研究の一助となる、nSP10のハザード発現機序の一端を見出したことから、本学会において発表し、今回の受賞に至りました。