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学生インタビュー

脳が形成されていく様子を
高速全脳イメージング技術で観察し
神経変性疾患の発症原因に迫りたい

薬学研究科 博士課程 医療薬学専攻(1年)

植野 寛貴 さん

所属・学年は 2022/8 現在の情報です

■博士課程に進学した理由

集中してガッツリ研究に取り組みたい

日常の生活の中にはわかっていないことがたくさんあります。自然は本当によくできているけれど、なぜそうなっているのか実はわかっていない。身体のことしかり、宇宙のことしかりです。理科が好きだった私には、そういう不思議を自分で解明してみたいという欲求があって、しかもその解明が病気の治療など人助けにつながれば素晴らしいと思い、薬学部を選びました。
その思いは今も変わりません。学部3年生からスタートした研究活動はもちろん面白かったのですが、研究マインドや研究手法を醸成するトレーニング期間でもありましたし、授業や実習と並行して取り組まなければなりませんでした。ですから学部6年間では満足できず、もっと集中してガッツリ研究に取り組みたい、自分自身の考えで方針や計画を決め、自分のやりたいように研究をしてみたいという思いが強くなり、博士課程に進みました。

■研究活動で達成感を感じたこと

学会発表を経験し、学生優秀発表賞を受賞

学部6年生のとき、3年生から続けていた研究を発表する機会がありました。発表したのは日本薬理学会の近畿部会。演題は「ミトコンドリア蛋白p13の遺伝子欠損マウスにおけるグルコース恒常性の変化」。p13というのは私が所属する研究室が同定した蛋白質なのですが、その機能については未解明の部分があり、私はp13遺伝子欠損マウスを用いて、p13が膵島のサイズ調節に関与している可能性が高いことを明らかにしました。新しい視点の糖尿病治療につながる知見として高く評価され、学生優秀発表賞を受賞することができました。
研究というのは毎日進歩があるわけではなく、停滞して苦悶する時間も多くあります。学会発表や論文によって初めて評価される世界なので、日々評価されることもあまりありません。ですから、こうした賞を頂けたことは素直にとてもうれしくて、発表に向けて周到に準備することの大切さも学ぶことができました。


■現在取り組んでいる研究

宇宙のように神秘的な脳の発生の謎に迫る

学部から同じテーマで研究を継続するのが一般的ですが、私は博士過程進学と同時に、膵臓から脳へと研究分野を変更しました。それぞれに解明すべき未知の世界が広がっているのですが、脳は宇宙のように神秘的で勉強すればするほど、本当にわかっていないことばかりだということに驚いています。
現在取り組んでいるのは、発達障がい、特に自閉スペクトラム症(ASD)の発症機序の解明を目指した研究です。ASDは発達の早期から認められる脳の働き方の違いによって起こる疾患です。そこで私は、胎内での発生期に脳内で神経細胞が生成され、各脳領域へと移動して脳が形成されていく様子を観察し、病態モデルマウスと通常のマウスを比較することで発症原因を明らかにしたいと考えています。分子細胞レベルで全脳の構造を明らかにした研究はありません。脳がどのようにできるのかが解明できれば神経変性疾患の要因に迫れるかもしれません。

■研究活動で大変だったこと

まず研究手法を確立しなければ研究は始まらない

この研究を始めて1年ほどですが、これまでに苦労したのは、研究目的に合致した研究手法を確立することです。神経細胞が生成されて脳が形成されていく様子を観察するにはどのような実験をすればいいのか、それを考え、カタチにしなければなりません。今回用いたのは、所属する研究室が独自に構築した高速全脳イメージング技術。蛍光標識した神経細胞を光学顕微鏡で観察し、これまでできなかった3D画像を構成する技術です。技術として確立しているとはいえ、個別の研究に合わせて様々な調整をする必要があり、光る神経細胞を持った病態モデルマウスと通常のマウスを一定数つくりだすのはなかなか大変でした。ようやくこれで研究のスタートラインにつけたわけで、本番はこれからです。研究活動は長く、本当の苦労はこれからですが、気負いすぎず、長期的な視点で成果を出していきたいと思います。

■将来目指しているもの

研究の進展と共に自ずと進路も見えてくる

博士過程1年生ですが、大学に残ってアカデミアの道に進むのか、企業で研究職に就くのか、進路についてはすごく悩んでいます。脳という神秘的な機関は生涯の研究テーマとしても魅力的だと思う一方、ちょっと優柔不断で飽き性なところもあるので、異なる環境で異なるテーマにチャレンジしてみたいという気持ちもあります。
いずれにしろ、今はガッツリと研究活動に打ち込むのみ。研究が発展し、生涯をかけて明らかにしたい問いが見つかれば、留学を含めてアカデミアに軸足を置くようになると思います。そしてアカデミアとなれば、研究の環境や設備が整っている大阪大学は魅力的です。選択肢が多いのはいいことなので、悩むことも楽しみたいと思います。

実験がうまくいかないと精神的に煮詰まってしまうことも。薬学バスケ部で思いっきり体を動かすのは、そんなときのリフレッシュに最適です。正式なクラブなのですが大会出場などはしないエンジョイ系。不思議なことに引退がなく、卒業したOBも練習に参加。社会人の先輩と話すのも楽しいです。

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