核磁気共鳴法(NMR法)では、生理的環境に対応する溶液条件下において、
タンパク質がどのような構造の間をどのような割合や速度で交換する
動的構造平衡状態にあるか、という定量的な時空間情報を得ることができます。
私達は、Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) をはじめとする、
様々な創薬標的タンパク質における、活性と直結する動的構造平衡を解明して、
生命現象のメカニズムの理解を深め、創薬を加速する研究を進めています。
私達は、NMRを利用して、中分子が、水溶液や疎水的な生体膜、
標的タンパク質との複合体といった多様な環境に応じて、
動的構造を柔軟に変える性質(カメレオン性)を明らかにすることで、
膜透過機構や標的タンパク質認識機構を解明して、
中分子医薬の開発を発展させる研究を進めています。
GPCRは、分子量が大きく安定性が低いため、NMR法の適用が困難で、
得られる情報も限られます。
私達は、新たな解析法、測定法、試料調製法を開発することで、
この問題を克服してきました。
(J. Biomol. NMR 2018, J. Biomol. NMR 2015, J. Biomol. NMR 2012等)
例えば、機械学習の手法である交換モンテカルロ法を利用することで、
NMRシグナルから得られる情報を最大化し、構造平衡の存在割合や交換速度を
定量的に抽出することを可能にしました。
(Nat. Chem. Biol. 2020)
その上で、開発した方法を活用して、GPCRが複数の不活性型・活性型構造間の
動的な平衡状態にあり、活性型構造の割合がGPCRに作用する薬物の薬効度やシグナル選択性を
規定することを明らかにしました。
(Proc. Natl. Acad. Sci. 2022, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, Nat. Commun. 2012)
さらに、ナノディスクを利用して、脂質二重膜中のGPCRのNMR解析にも成功して、
(Angew. Chem. Int. Ed. 2014)
アレスチン活性化の機構や、(Nat. Commun. 2021, Nat. Commun. 2018)、
脂質成分による構造平衡変化がGPCRの活性を規定する機構を解明しました。
(Sci. Adv. 2020)。
また、ケモカイン受容体が二段階で基質を認識する機構を解明しました。
(J. Biomol. NMR 2015, J. Am. Chem. Soc. 2010, J. Biol. Chem. 2009)
このようなGPCRの機能と直結する動的構造平衡は、
他の構造生物学的手法では得られない生物学的、創薬科学的に重要な知見であり、
複数の総説論文の執筆を依頼されるに至りました。
(Nat. Rev. Drug Discov. 2019, J. Magn. Reson. 2022, Biophys. Rev. 2019等)
GPCR以外にも、