薬学研究科では、在籍する大学院生等に対し、
将来を担う若き研究者として国際的な場での経験を積ませるため、
海外における研究や国際学会での発表に関わる経費の支援を行っています。

島田 佳代子
伝統医薬解析学分野
博士後期課程3年(当時)
モロッコ・マラケシュ
2012年4月6日~4月15日
■目的
The 18th International Taurine Meetingにて口頭発表を行うとともに、当該分野における最新情報の収集を行う。

■発表論文あるいは共同研究の題目と概要
【題目】The ability of taurine as a marker for the identification of natural Calculus Bovis and its substitutes

【概要】牛黄は日本と中国で使用頻度の高い動物性生薬の一つである。天然品は希少だがその需要は増大しており、中国では公定書に代替品として、胆汁酸やビリルビンなどを混合した「人工牛黄」と、試験管内に体内の環境を再現し、培養した「体外培育牛黄」の2つを収載している。我々は天然の牛黄と代替品の違いを明らかにするため、生物学的活性の差を検討するとともに、天然品と代替品の判別手法の確立を目指した。双方をラット新生児由来培養心臓線維芽細胞に投与したところ、0.25mg/mlで人工品は細胞障害性を示したが、天然品は影響を及ぼさなかった。このことより、天然品と代替品には生物学的活性には差があり、これらの判別が必要であることが示唆された。そこで、含有金属を測定したところ、人工品ではFe, Mg, Caが天然品に比べて高濃度で含まれていた。また、有機成分面では人工品でコール酸が多く検出され、体外培育牛黄では含まれる胆汁酸の約80%を占めていた。また天然品ではtaurineは5mmol/g程度だったのに対し、代替品では30-850mmol/gと極めて高濃度だった。さらに、分光学的解析法(遷移放射光による透過スペクトル及びMossbauerスペクトル)においても天然品と代替品の間で差が見られた。これらの検討より、天然品と代替品には成分面でも差があり、特に代替品の製造時に添加されたと思われるtaurineなどの成分が両者を判別する上での重要な指標となる可能性が示唆された。

■海外派遣で得られた成果
研究内容を発表することで、海外の研究者との直接の意見交換ができ、これからの研究を行う上で非常に貴重な意見を得られた。欧米からの参加者の多い中、主にアジアで用いられる生薬、牛黄についての知識を提供することが出来、非常に興味深いとのコメントも頂いた。また、口頭にて発表を行い、質疑応答を英語で行うことで、英語を用いたディスカッションのスキルを磨くことができた。さらに、他の研究発表を聞き研究分野に対する知見を広めるとともに、様々な年代の研究者と交流することで今後の研究に対する姿勢や海外での活動について考える上で大変参考となった。

清水 かほり
分子生物学分野
博士後期課程3年(当時)
アメリカ・フィラデルフィア
2012年5月15日~5月21日
■目的
第15回American Society of Gene and Cell Therapy(アメリカ遺伝子細胞治療学会)に参加し、筆頭演者として現在の研究テーマをポスター発表する。そして現在の研究について広く世界に発表するとともに、意見交換を行い、研究をさらに発展させる。また、世界の遺伝子細胞治療研究の最先端に関して情報収集を行う。

■発表論文あるいは共同研究の題目と概要
【題目】Development of a novel adenovirus vector carrying microRNA-targeted sequences in the 3’-untranslated region of the pIX, E2A, or E4 gene for suppression of the leaky expression of adenovirus genes

【概要】非増殖型アデノウイルス(Ad)ベクターは、既存のベクターの中で最も遺伝子導入効率が高いこと、高タイターのウイルスが回収可能であることなど、多くの長所を有していることから、遺伝子治療研究において汎用されています。従来の非増殖型Adベクターでは、他のウイルス遺伝子の発現を誘導する初期遺伝子であるE1遺伝子が欠損されており、理論上その他のウイルス遺伝子が発現しないよう設計されています。しかしながら、遺伝子導入後、E1遺伝子非依存的にわずかにAdタンパク質が発現することにより、それらのタンパク質に対する細胞性免疫が誘導されるとともに、Adタンパク質そのものによって組織障害が引き起こされることで、遺伝子導入細胞が除去され、遺伝子発現が一過性になることが明らかとなっています。そこで私は、microRNAによる遺伝子発現制御機構を利用して、Adタンパク質の非特異的な発現を抑制することで、細胞性免疫およびAdタンパク質による直接的な細胞毒性を回避可能な、新規Adベクターの開発を目指しました。まず私は、Adベクター作用後にE2A、E4、pIX遺伝子が他のAd遺伝子と比較して高発現することが明らかにするとともに(Shimizu et al., Mol. Pharmaceutics, 2011)、それらAd遺伝子の3'非翻訳領域にmicroRNA の標的配列を挿入したAdベクターを開発しました。アメリカ遺伝子治療学会では、本Adベクター作用後の遺伝子導入特性について報告しました。

■海外派遣で得られた成果
本学会でポスター発表したことで、世界の多くの研究者に自分自身の研究を知っていただくことができました。世界の研究者と直接ディスカッションすることで、私の研究に対して、研究者はどの部分を興味深いと考えるのか、どの部分をより知りたいと思うのか等を知ることができ、今後の研究の方向性を多角的に考える上でとても参考になりました。また、以前から憧れていた海外の研究者が幸運にも私のポスター発表を見に来てくださり、ポスター発表を通して親しくなり、帰国後も研究等を含んだ近況を報告し合っています。一方で、世界の最先端の研究成果を直に知ることができ、自分自身の研究の参考になるとともに、研究意欲がさらに増しました。また、私の研究テーマの大きなキーワードである「遺伝子治療」について、日本と世界の臨床・研究の意識や環境の差について学ぶことができました。各種難治性疾患に対する次世代の治療法として期待されている遺伝子治療が、世界そして日本で実現するために必要な研究を考える一助となりました。 今回の海外派遣は、国際的な場で研究テーマを発表し、情報収集を行う有意義な経験になりました。この経験を活かし、国際的な場で活躍できる研究者になれるよう、日々研究に励んでいきます。

阪野 文哉
衛生・微生物学分野
修士課程2年(当時)
アメリカ・サンフランシスコ
2012年6月15日~6月21日
■目的
第112回 American Society of Micribiology (ASM) meetingで発表を行った。

■発表論文あるいは共同研究の題目と概要
【題目】Rapid monitoring of L. pneumophila in cooling tower water with microfluidic system

【概要】Legionella pneumophilaは冷却塔を始めとする水を循環使用する環境で、しばしば増殖し、感染症の原因となることが知られている。本菌による感染症を予防するためにその迅速なモニタリングが重要であり、特別な技術や設備を用いず簡便に検出できる方法が求められている。蛍光顕微鏡を用いることで、培養せずに検出を行うことが可能であるが、操作が煩雑である。そこで本研究では冷却塔水中のL. pneumophilaをモニタリングするための持ち運び可能なマイクロ流路システムを作製した。作製したシステムではL. pneumophilaに特異的な蛍光抗体で染色し、マイクロ流路(幅:100 μm 深さ:15μm)に流し、励起光の照射により得られる蛍光を検出する。阪大の冷却塔から採取した冷却塔水中のL. pneumophila数について、作製したシステムと蛍光顕微鏡法、培養法による計数結果と比較した。本システムで得られた値は蛍光顕微鏡を用いた検出結果と同等であった。また、培養法の結果とはL. pneumophila数の変化に相関がみられた。作製したシステムを用いることで3時間以内に検出できた。本研究は水環境中のL. pneumophilaのオンサイト・リアルタイムモニタリングを可能にするものである。

■海外派遣で得られた成果
本学会で研究発表を行うことでLegionellaの研究を行っている研究者とディスカッションを行うことができ、自分の研究に対しての評価を知ることできた。また、海外の研究者とのディスカッションを通して自身に不足しているものに気付くことができ、自分自身や自分の研究に対してもう一度客観的に見直す機会となったと思いました。海外での発表を通して日本とは異なる文化を学ぶことができ、今回の派遣は貴重な経験となりました。

中村 光
分子合成化学分野
博士後期課程3年(当時)
オーストラリア・メルボルン
2012年6月30日〜7月7日
■目的
ポスター発表を通じでこれまで行ってきた研究の成果の報告を行う。外国の研究者と討論することで、普段の研究生活では体験できない外国の研究者とのコミュニケーションを図り、研究面だけでなく、英会話なども積極的に経験してグローバルな研究者になることを目指す。

■発表論文あるいは共同研究の題目と概要
【題目】C3-Symmetric Trisiimidazoline Catalysed Enantioselective Bromolactonization of Olefinic Acids

【概要】ハロラクトン化反応は合成化学上重要な反応で、これまで様々な触媒を用いてキラルなラクトンの合成研究が活発に行われている。しかしながらこれまでに報告されている手法では適応可能な範囲が限られており、新たな手法の開発が望まれている。 今回我々は当研究室で独自に開発したC3対称構造を有するトリスイミダゾリンを触媒として用いることで、高選択的に目的物であるキラルブロモラクトンを得ることに成功した。本手法はこれまでに用いられてきたエキソエンカルボン酸だけでなく、報告例の数少ない内部オレフィンについても適応可能であり、汎用性の広い手法であることが明らかとなった。さらにこの方法を応用することで生理活性天然物であるtanikolideの簡便な不斉全合成を行った。

■海外派遣で得られた成果
分子合成化学の分野における大規模な国際学会に参加することができ、貴重な体験となりました。自身のこれまでの研究成果をポスター発表を通じて海外の研究者の方々と議論することで、客観的な意見を得ることができました。また昨年ノーベル賞を受賞された根岸先生の講演をはじめ、海外の著名な先生方の講演を聞くことで、最先端の研究に関する知識を深めることができ、国内の学会では得難い有意義な時間を過ごすことができました。今後の課題として、より深い議論を行うためにはもっと英語に精通する必要あることがあることを認識したので今後継続した勉強を行っていきたい。

薮本 千鶴
医療薬学分野
博士後期課程3年(当時)
スペイン・バルセロナ
2012年8月23日~8月27日
■目的
28th International Conference on Pharmacoepidemiology and Therapeutic Risk Management にてポスタ−発表

■発表論文あるいは共同研究の題目と概要
【題目】Safety evaluation of Generic and Brand-name products of Ampicillin Sodium/Sulbactam Sodium for injection

【概要】日本では、近年コスト面から注射用抗菌薬においても後発医薬品の使用が促進されている。大阪大学医学部附属病院において注射用スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム(SBT・ABPC)の後発医薬品の採用に伴い感染制御チームへの副作用報告が見られた。そこで、SBT・ABPCの先発医薬品と後発医薬品の安全性の比較を行った。  研究のデザインは、カルテ情報に基づく後ろ向き横断研究である。ただし、一般病棟患者(先発品群)と救急病棟患者(後発品群)で副作用の発現に関する患者背景に潜在的な違いがある可能性が高いので、患者背景の違いによる交絡の影響を調整するために、性別(男性・女性)、年齢(65歳未満・以上)、投与期間(5〜7日、8〜14日)をマッチングして副作用の程度や頻度を比較した。  無効例や副作用により他の注射用抗菌薬に変更された症例数は、先発品群で6/52人(11.5%)、後発品群で13/52人(25%)であった。 副作用及び臨床検査値異常の発現頻度は、先発品群で11/52人(21.1%)に18件、後発品群で18/52人(34.6%)に22件であった。有意な差までは至らなかったが、後発品群に副作用が多い傾向がみられた。臨床検査値については、体温やCRPの上昇が特徴的な変化として観察された。後発群において投与中止後に解熱する症例が3/52人みられ薬剤性の発熱が疑われた。また、CRPが15以上上昇した4名について医学的な観点から検討を行ったところ、2/4人に薬剤による可能性が疑われた。両群において平均値に有意差はなかったが後発品群で体温やCRPが顕著に高い患者が数名観察され、これらの患者が副作用発現の違いに影響を与えたと考えられる。以上のことから、後発医薬品への切り替え時は注意が必要であり、状況に応じて継続的なモニタリングが必要であるといえる。

■海外派遣で得られた成果
今回参加した国際疫学会では、世界の国々から1200以上の演題登録があった。10題以上の演題登録をしている19の国の中で日本は15番目(18演題)、ちなみに台湾22演題、韓国は20演題より少なく、少し残念な結果であった。連日、シンポジウムやワークショップでEMEA、FDA、WHOなど代表的な機関や各国の様々な組織から、最新のPMSについての動きや、トピックスが紹介され、貴重な最新情報を得ることができた。また、ポスター発表では、様々な国の参加者と質疑応答でき、情報交換できた。しかしながら、疫学研究でも日本は前述のようにアジアの国々の中でも少し出遅れ感があることは否めない。国際学会への参加により、今後の研究への大きな刺激となったことから、今回の体験を活かせるよう頑張っていきたい。
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