食と環境の安全安心を担う薬学人材養成教育

- 統合型教育体制の整備による食と環境の安全・安心を確保できる環境薬学領域の人材育成 -

平成20年度 質の高い大学教育推進プログラム

 

環境薬学教育に対する社会的ニーズ

 薬学教育に対する社会的ニーズは「健康の維持・増進に貢献できる人材養成」にあるが、近年、高齢化社会の到来や生活習慣病患者数の増加、さらには、国民のクオリティーオブライフ(QOL)の向上に対する強い関心から、さらに、「多様化・高度化する医療に対応できる医療人としての薬剤師」、すなわち、医療薬学領域の専門的知識・技能と、医療人としての倫理観・使命感を持った高度な薬剤師の養成が求められるようになった。こういったニーズに応えるために薬学教育制度改革が行われ、平成18年度から始まった6年制導入によって、全国の薬学部において教育制度改革による医療薬学教育の充実、特に病院や薬局で活躍できる高度な薬剤師の養成に重点を置いた取組が行われている(下図)。

 大阪大学薬学部でもこれまでの4年制1学科(総合薬学科)から6年制(薬学科)と4年制(薬科学科)の2学科併置へ移行した。両学科では、1年次の共通教養教育と2、3年次の基礎薬学教育を共通に履修し、4年次以降は各学科の人材養成の目標に合わせた学部教育を行なう。まず薬学科では、創薬から投薬に至るまでの医療人としての見識を持つ薬の専門家(薬剤師・医療薬学研究者)の養成を目的として、学内外の医療系部局・機関との連携を強化し、高度かつ実践的な医療人教育を提供している。一方薬科学科では、大学院進学を前提に、創薬科学や環境薬学領域の研究者養成を目的とした研究教育を行っている。

 しかし、国民の健康への関心は年々高まり、高度な医療への期待にとどまらず、食や環境の安全・安心に対する強い不安が示されるようになった。例えば、食品汚染による健康被害や、ダイオキシン等の内分泌かく乱物質、いわゆる環境ホルモンによる汚染、新興感染症や、結核などの再興感染症の流行、院内感染症の蔓延など、食と環境を脅かす多くの問題が発生しており、輸入加工食品への農薬混入による健康被害や新型インフルエンザの大流行は、記憶に新しい。

 このような国民の健康に対する不安を解消し、健全な生活を保証するためには、食と環境の安全・安心を確保するための有効な方策を講じる必要があるが、食品や食材の多くを輸入に依存しなければならない我国の食料事情や、未だ環境ホルモンの有効な除去技術が確立されていない現状、さらに多くのヒトと大量の物資が日夜世界中を巡る現代の国際社会情勢を考えれば、これらの問題の原因を根本的に正すことは容易ではない。例えば、こういった問題が発生する原因の一つである地域や国による不統一な食や環境の安全・安心に関する法規制についても、長期的な視野に立った国際協調が必要であり、長い時間を要すであろう。したがって、こういった現状では、我が国において“高度なリスクマネージメント”体制を整え、食や環境を危険に曝す可能性のある様々な因子を網羅的に探索・解析し、これを排除あるいは回避するための有効な対策を講じることによって、健康被害を未然に防ぐことが最も有効な対策と言える。

 食と環境の安全・安心の確保は、衛生化学や公衆衛生学、分析化学などを主要な教育研究領域として、我が国の世界に誇る衛生的な社会環境の確立に貢献してきた“薬学”が主導的な立場で担うべき使命である。したがって大学は、環境薬学教育のさらなる高度化及び実質化に早急に取組むことにより、食と環境の“高度なリスクマネージメント”を担うことができる優れた薬学研究者や薬剤師を養成し、“食と環境の安全・安心を確保できる人材”として衛生試験所や検疫機関、行政機関や研究機関等の最前線へ輩出しなければならない(上図)。


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