大阪大学薬学部60周年記念行事で同窓生が講演

大阪大学薬学部は昭和24年に医学部薬学科として発足し、その創立60周年記念行事が平成21年10月31日に開催されました。記念式典に引き続いて医薬品業界の諸分野で活躍されている4名の同窓生により記念講演が行われ、230名もの参加者一同大変興味深く拝聴いたしました。講師と演題は次の通りです。(肩書は講演当時のものです)講演の要約を4回に分けてホームページに順次掲載いたしますので、どうぞご期待ください。



大阪大学薬学部 創立60周年記念行事
日時/平成21年10月31日(土)
会場/ホテル阪急エキスポパーク

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講演1 「今後の医薬行政と大学への期待」
岸田修一氏(院20期)
厚生労働省大臣官房審議官(医薬担当)
講演2 「ジェネリック医薬品の現状と将来展望」
澤井弘行氏(11期)
沢井製薬株式会社会長
講演3 「抗リウマチ薬トリシズマブ誕生までの30年」
大杉義征氏(15期)
中外製薬株式会社営業本部学術情報部長
講演4 「変貌するOTC」
大江方二氏(16期)
第一三共ヘルスケア株式会社前副社長



岸田 修一
厚生労働省大臣官房審議官
講演 1 今後の医薬行政と大学への期待
製薬産業のグローバル化に対応して薬事規制の国際調和が図られてきたが、海外で承認されている医薬品の承認が本邦において遅れる(ドラッグラグ)問題を生むことにもなった。その解消に臨床開発期間の短縮、承認審査期間の短縮の努力がされているほか、ドラッグラグの最も大きな要因である治験着手時期の遅れを短縮させるため、国際共同治験に日本も同時に参画する取組みが精力的に行われている。また、患者数が少ないために日本での開発が進まない治療薬の開発促進のため、基金による財政支援の取組みも行われている。今後、アンメット・メディカル・ニーズへの薬剤開発が重要である。多額の費用を必要とする臨床開発の多くが承認に至るまでに失敗しており、開発を効率的に行うためのバイオマーカーの研究・評価が課題である。また、莫大な費用により開発された医薬品がドロップするリスクや重篤な副作用の拡大を防ぐため、市販前・市販後を一貫して安全性情報をグローバルに収集し、ライフサイクル・リスクマネジメントを行うことも重要である。そして、市販後の有効性・安全性の評価に、医療情報を活用した薬剤疫学研究が期待されている。また、生産拠点・原材料のグローバル化は、原材料調達、加工、供給、生産、流通が国境を越え、様々な国の様々な業者が関与する事態となっている。米国で発生したヘパリン製剤による死亡事故の原因となった不純物混入ヘパリンが世界各国で見つかったことは、企業の品質管理や規制当局の連携のあり方に大きな教訓を与えた。
一方、フィブリノゲン製剤によるC型肝炎事件の和解を契機に発足した「薬害肝炎事件の検証と再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」は、平成20年7月に中間取りまとめ、平成21年4月に第一次提言を発表し、安全対策強化の取り組みがはじまった。患者へのリスクを減らすため、遺伝子多型の活用や、患者参加型のリスクマネジメントも重要である。また、平成20年6月に厚生労働省が発表した「安心と希望の医療確保ビジョン」に提言されているチーム医療、在宅医療への薬剤師の取組みも併せて推進する必要がある。
大学には、創薬・育薬研究の発展と研究者の創出、患者中心の視点をもった薬剤師の養成、レギュラトリーサイエンス、薬剤疫学の人材育成の要となることを期待したい。




澤井 弘行
沢井製薬株式会社会長
講演 2 ジェネリック医薬品の現状と将来展望
ジェネリック医薬品(後発医薬品、以下GE)の意義は、医療の質を落とすことなく医療費を節減することにある。 これまで厚生労働省は、悲惨な薬害事件を教訓として、新薬の品質の向上、有効性と安全性の確立、有用性の評価など薬業界と共に取り組んできた。同時に経済合理性の観点から、特許が満了すれば安価なGEに代替可能であるように、GEの品質と有効性・安全性が新薬と同等であるための取組みにも努力してきた。GMP、GMP省令化、バリデーション施行、安定性データ厳格化、ヒトにおける血中濃度比較試験、薬効再評価、品質再評価、「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」公表等。 この40年のGEの歴史は、厚生労働省もGE業界も、重複する前臨床・臨床試験を省略し、欧米先進国と同様にGEが新薬と同等であることを立証し、それを認識してもらうための歴史であったと言っても過言ではない。現在、厚生労働省はGEの品質、有効性・安全性が新薬と同等であると明記したポスターやパンフレットを発行し、医療機関に配布している。このことは極めて重いことである。 さて、新薬の特許が満了すればどのくらいGEに替わるかという国別のデータがある。アメリカ89%、カナダ79%、ドイツ74%、イギリス69%に対し、日本24%、ギリシャ38%、アイルランド39%、スペイン41%である。アメリカでは降圧剤アムロジピン(ノルバスク・ファイザー)の特許が満了した現在、98%がGEに替わっているという。経済大国はGEのシェアが高く、経済不安のある国ほど低いのは偶然であろうか。 日本の国民医療費は2007年34兆円、2010年予測37.5兆円、毎年1兆円ずつ増加している。一方、税収入は周知とおり心細い限りである。このままではいずれ日本経済は破綻する。 日本政府は2006年、GEの普及促進を閣議決定し、2007年から2012年度末までに、GEのシェアを2倍の30%以上にすると数値目標を掲げ、それは民主党政権下でも継続されている。GE促進のための経済的インセンティブも強化され、処方箋様式の再変更による代替調剤体制も実現した。お蔭でGEのシェアは伸びつつあり、最新のデータでは20%を超えてきたが、目標の30%達成は極めて困難と言われている。 日本のGE市場が魅力的ということで、これまでのエーザイ、明治製菓、武田薬品等以外にも、第一三共、田辺三菱製薬、ファイザー、富士フイルム、テバ(GEの世界最大手)が参入し、今後より一層高いレベルで競争は激化していくが、国や国民にとっては望ましいことだと思う。 最後に、GEの普及は薬剤師の取組みに依存している。薬剤師の職能の向上と使命感に心より期待したい。




大杉 義征
中外製薬株式会社営業本部学術情報部長
 
講演 3 抗リウマチ薬トリシズマブ誕生までの30年
関節リウマチの患者数は、我が国では70万人。適切な治療を受けなければ、半数は手指や足の関節が変形して動かなくなり、多くは車椅子の生活を余議なくされ、倦怠感や痛みを伴い寝たきり生活になる。余命は10年程度短い。代表的な自己免疫疾患であるが、発症の原因は明らかではなく、最近に至るまで満足な治療薬がなく医者泣かせの難病中の難病であった。
筆者は1969年に中外製薬株式会社に入社、免疫学領域の研究を命じられた。暫くして、自己免疫疾患に興味を抱き、カリフォルニア大学に留学したのが転機となった。モデルマウスで自己免疫疾患発症に「B細胞異常活性化現象」が関与していることを裏付けた研究成果に基づき、B細胞阻害薬が自己免疫疾患の根本的治療薬になると考えた。帰国後、阻害剤探索に着手する傍ら、B細胞を活性化する原因因子の同定を試みていた。1986年に大阪大学の岸本忠三先生(元総長)らにより、活性化B細胞を抗体産生細胞に分化させるT細胞由来の可溶性因子が見出され、この因子(IL-6)が自己免疫疾患様の症状を惹起することが示された。我々がマウスで探し求めていた原因因子はIL-6ではないのかと直感し、IL-6阻害薬の開発を目指して、大阪大学との共同研究が開始された。
トシリズマブは、Interleukin (IL)-6受容体に対するマウスのモノクローナル抗体を元に遺伝子工学的手法によってヒトの抗体の姿に変え、医薬品として使い易くした人工抗体で、IL-6の作用を特異的、且つ強力に阻害する。関節リウマチに対する効果は大変優れており、関節の痛み、腫脹を軽減し、発熱、倦怠感、貧血、食欲低下などの全身症状を劇的に改善する。既存のリウマチ治療薬では効果が得られない治療困難な症例においてさえ、6ヶ月後には98%の患者において症状が改善され、多くの症例で関節破壊の進展が抑制された。驚くべくことに半数近い症例が寛解に達し、QOL向上により日常生活を取り戻す患者も数多い。日本での臨床開発、発売が先行し、続いて世界50カ国以上で発売が開始され、多くの関節リウマチ患者に福音をもたらしている。トシリズマブなどの抗体医薬品によってリウマチの薬物療法に革命が起こったと言われ、以前は痛みを軽減し、関節破壊を遅らせることが治療の目標であったのが、今では関節破壊を止め、関節機能を改善させるのが目標となっており、関節リウマチは治せる時代になったと言われている。早期診断、早期治療により、関節が破壊されて日常生活に支障をきたす患者は激減すると期待されている。




大江方二
第一三共ヘルスケア株式会社前副社長
 
講演 4-変貌するOTC-
ドラッグストアや薬局等で販売されているOTC医薬品(大衆薬、市販薬等からOTC医薬品に呼称を統一・変更)はその販売に際して、非専門家が対応したり、情報提供がされないことも有り OTC全体に対する生活者の理解度はそれ程高くはなかった。しかし今般の薬事法改正によってOTC医薬品の位置づけや販売方法が明確となり生活者の理解も進むと思われる。薬事法改正によってこの6月から新しいOTC医薬品販売制度がスタートしたが、国民からみて解りやすい制度であること、薬剤師等専門家により適切な情報が提供されること、OTC医薬品の適正使用が推進されることなどが目的である。 新しい販売制度の概要は①全てのOTC医薬品を一律に扱うのではなく安全性などの項目で評価し第一類、第二類、第三類医薬品の3グループに分類②販売に従事する薬剤師以外の専門家(登録販売者)を創設③適切な情報提供などのための環境整備の3項目である。第一類医薬品は使用経験の少ないものや、安全性上特に注意を要する医薬品で薬剤師による販売、さらに販売時の情報提供が義務づけられている。第二類、第三類医薬品は薬剤師、登録販売者により販売され、情報提供については第二類が努力義務、第三類については規定はない。 環境整備としては、医薬品分類区分をパッケージや添付文書に表示する、医薬品の店頭陳列は分類区分ごとにおこなう、専門家(薬剤師、登録販売者)と非専門家の区別をおこなうなどの対応を進めている。6月から改正薬事法が施行されているがこの数ケ月間の状況を観ると、要薬剤師薬である第一類医薬品が苦戦していること、当初大きく拡大すると思われたコンビニでのOTC医薬品の販売はあまり進んでいないようである。 スイッチOTCの多くが第一類医薬品に分類されているが、スイッチOTCの開発・上市については以前より注力し水虫薬や胃腸薬領域を中心に多くの製品を発売してきたし、最近ではヘルペスやカンジダの治療薬も発売されている。また将来軽症の高血圧症治療薬などのスイッチ化も検討している。 新しい販売制度等によりOTCが大きく変わる中でM&Aや業務提携が進んでいる。規模拡大のためのM&Aはもちろんであるが、医薬品卸と食品卸・日用雑貨卸が、またドラッグストアとコンビニ、さらに調剤薬局との業務提携など業種を越えての「業界再編」が活発におこなわれている。 販売方法、情報提供、スイッチOTCの開発・上市、販売ルートの拡大などOTCにとって今までと大きく変わる時代となった。この変革に十分対応し生活者のより健やかで快適な生活実現に貢献しなければならない。
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