3.宇宙居住と微生物



    微生物は我々の体表や鼻腔・口腔、消化管内に常在し、また生活環境中の微生物は呼吸や飲食を介して我々と接触することにより、健康と密接にかかわっています。これらの微生物の中には、微小重力下で病原性が上昇するという報告がされているものもあり、地上以上に微生物汚染に対する注意が必要とされています。さらに、ロシアの宇宙ステーション・ミール内で機器の配線に真菌が繁殖し、障害が生じたとの報告もされており、ヒトのみではなく、機器に対する微生物の影響も重視する必要があります。
    そこで現在、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」を対象として、宇宙居住環境の微生物モニタリングに関する研究を進めています。まずモニタリングを簡便かつ高精度に行うために、スワブを用いたサンプリング法のプロトコールの改良を行うとともに(文献1)、機器等の表面から細菌を効率良く回収するためのサンプリングシートを独自に開発し、NASAの宇宙飛行士に対するサンプリングのトレーニングを実施しています。さらに、長期滞在とともに微生物数や群集構造がどのように変化するのかを明らかにするため、「きぼう」内での微生物モニタリングを始めています。本研究は2009年に開始し(http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/second/microbe/)、2014年度以降も継続的に行う予定です(http://www.jaxa.jp/press/2012/11/20121122_kibo_j.html#at2)。これまでに採取した試料を解析した結果、現状では「きぼう」内の微生物学的環境は、地上の一般的な生活空間以上に清浄であることを確認しています(文献2)。今後ヒトの滞在が長くなるとともに、「きぼう」内の微生物群集がどのように変化するかを明らかにし、NASA(アメリカ航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機関)とも情報交換を続けながら、今後の宇宙居住の基盤となる知見を蓄積していく予定です。
    また現在、宇宙ステーション内で採取した試料は地上に持ち帰り、研究室で細菌数測定などを行っています。しかしながら、試料の輸送にコストと時間を要するため、リアルタイムで結果が得られる微生物モニタリング法が切望されています。そこで、宇宙ステーション内での細菌モニタリングを半自動的に行うために、マイクロ流路デバイスを用いたシステムの開発を進めています。マイクロ流路デバイスとは、数cm四方のチップに幅・深さ数十マイクロメートルの流路を刻んだデバイスです。その特徴として、(1)細菌数を迅速(数時間以内)かつ半自動的に測定できる、(2) 測定に必要となる試料・試薬が0.1 mL以下と少量である、(3) デバイス上で染色等の反応が可能である、(4) 密閉系で測定でき、使用後すぐに滅菌できるのでバイオハザードのリスクを低減できる、(5)システムの小型化によりon-site(その場)で測定できる等の点が挙げられます。本デバイスは、飲用水中の細菌数の高精度測定に応用可能であり、1時間以内に結果を得られることを報告しています(文献3)。今後、JAXAとともに、微小重力下での実証実験を進める予定です。また、本システムは地上においても活用が期待され、飲用水の衛生微生物管理はもとより、医薬品製造や食品製造、医療機関など、on-siteでのリアルタイム微生物モニタリングを必要とする広い分野で役立つものと考えています。

文献
1. Simple and reliable swabbing procedure for monitoring microbes in the International Space Station. N. Yamaguchi, H. Hieda, M. Nasu. Eco-Engineering, 22: 27-30 (2010)
2. Bacterial monitoring with adhesive sheet in the International Space Station-“Kibo”, the Japanese Experiment Module. T. Ichijo, H. Hieda, R. Ishihara, N. Yamaguchi, M. Nasu. Microbes Environ., 28: 264-268 (2013)
3. Rapid, semiautomated quantification of bacterial cells in freshwater by using a microfluidic device for on-chip staining and counting. N. Yamaguchi, M. Torii, Y. Uebayashi, M. Nasu. Appl. Environ. Microbiol., 77: 1536-1539 (2011)






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