2.黄砂による微生物の長距離移動



    地球上の各地域には、それぞれの固有動植物種が存在します。例えば、南極に生息するペンギンは北極には生息しておらず、アフリカに生息するチンパンジーは南米のアマゾンには生息しません。しかしながら、微生物に関しては「あらゆる種の微生物があらゆる環境に存在し、環境が優占種となる微生物を選択する(Everything is everywhere, but, the environment selects)」という考え方が一般的となっています。すなわち、微生物は大気現象や海流などにより地球上を巡り、生息に適した環境に定着すると考えられています。しかしながら、大気現象による微生物の移動の実態については、いまだ不明な点が多く、その環境や生態系、また健康に対する影響については明らかになっていません。
    黄砂は、東アジアの砂漠域や黄土地帯で強風により大気中に舞い上がった土壌粒子が西風に乗って飛来する現象であり、日本では季節の風物詩として捉えられることもあります。しかしながら、中国では黄砂は「砂塵暴」と呼ばれる自然災害であり、大量の砂塵の移動が交通障害、農作物の生育被害、呼吸器疾患などの原因となっています。韓国でも黄砂の飛来量の増大とともに、大きな社会問題・環境問題となっています。日本への黄砂の飛来量は毎年100万トン以上であると推測されており、発生量の多いときは大陸から日本へ飛来する黄砂が、気象衛星画像でも確認できます。さらに黄砂の一部は太平洋を越え、北米大陸にも到達するという報告もあります。
    当研究室では、大量に飛来する黄砂の環境・生態系に対する影響を、環境微生物学的な側面から明らかにする必要があると考えています。そこで、細菌を「生理活性・遺伝子情報をもつ粒子」として捉え、黄砂表面の細菌を直接可視化するバイオイメージング法や分子微生物生態学的手法により、研究を進めています(文献1, 2, 3)。
    大気現象による微生物の移動やそれにともなう環境・健康への影響に関しては、未知である部分が多いにも関わらず、メディアやインターネット上などでは、その有害性に関するニュースが流れています。リスク・コミュニケーションの基本は、科学的裏づけです。現在、新たに作製したサンプリング装置を用いた黄砂捕集を日本上空で継続的に行い、黄砂とともに日本に飛来する細菌の量や群集構造を明らかにするための研究を進めています。

文献
1. Global dispersion of bacterial cells on Asian dust. N. Yamaguchi, T. Ichijo, A. Sakotani, T. Baba, M. Nasu. Scientific Reports, 2: 525-510 (2012).
2. Break down of Asian dust particle on wet surface and their possibilities of cause of respiratory health effects. N. Yamaguchi, A. Sakotani, T. Ichijo, T. Kenzaka, K. Tani, T. Baba, M. Nasu. Biol. Pharm. Bull., 35: 1187-1190 (2012)
3. Change in the airborne bacterial community in outdoor environments following Asian dust events. N. Yamaguchi, J. Park, M. Kodama, T. Ichijo, T. Baba, M. Nasu. Microbes Environ., 29: 82-88 (2014)






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