1.生活環境の改変と感染症



    レジオネラは自然環境中に広く分布するものの、その現存量は一般的に多くありません。それにもかかわらず、Legionella pneumophilaは水を循環使用する環境においてしばしば急増し、レジオネラ症(レジオネラ肺炎、ポンティアック熱)を引き起こします。国内では大型浴場施設やクルーズ客船での感染例が報告されており、死亡者も出ています。
    感染症の予防の基本は、モニタリングです。起因菌であるL. pneumophilaの検出には一般的に培養法が用いられていますが、結果を得るまでに約2週間を要するため、より迅速・高精度な手法が切望されています。また、病原細菌のモニタリングにあたっては、その現存量のみではなく、生理活性や生死に関する情報も重要となります。
    そこで当研究室では、蛍光抗体とマイクロコロニー法を用いた手法を作成しました(文献1)。環境中の細菌の多くは一般的な条件下で培養すると、肉眼で確認できる大きさのコロニーは形成しないのですが、数十μmのマイクロコロニーを形成します。このマイクロコロニーに対して、L. pneumophilaに特異的な蛍光抗体を用いた染色を行うことにより、増殖能をもつL. pneumophilaの選択的な検出・計数を可能にしました。本方法は約2日で結果を得ることができることから、温泉水や冷却塔水中のレジオネラ自主検査にも利用可能です。
    さらに、自然環境中と水を循環使用する環境中ではL. pneumophilaの多様性や遺伝子型が異なるのではないかと考え、研究を進めています。その結果、L. pneumophilaの血清群が自然環境中では多様であるものの、冷却塔水中では血清群1のみが優占すること、膜タンパク質遺伝子の配列とL. pneumophilaの生存環境との間に関連のある可能性を見出しています。
    レジオネラ症は、EU諸国内の交通・流通が拡大するとともに旅行者感染症として問題視されており、European Working Group for Legionella Infectionによるサーベイランスが続けられています。アジアにおいても域内の交流は今後さらに活発となり、レジオネラに対する同様の注意が必要となることから、レジオネラに関する環境微生物学的側面からの研究は、ますます重要になると考えられます。
    非結核性抗酸菌は、非結核性抗酸菌症の原因菌です。本菌は結核菌に比べてビルレンスは低いものの、薬剤が効きにくく、非結核性抗酸菌症に対する有効な治療法も確立していません。1990年頃から米国などを中心に世界的に感染者数が増加し、社会問題化しています。水環境、特に家庭内の水環境が感染と深くかかわっていることが示唆され、米国EPA(United States Environmental Protection Agency)では水道水中のマイコバクテリウムをゼロにするよう努力目標を設定しています。日本国内では毎年新たに6,000名を超える非結核性抗酸菌症の患者が発生しており、また排菌していない場合は診断が困難であることから、実際の患者数はさらに多いと推測されています。しかしながら、その感染経路は不明であり、その理由としては環境中の非結核性抗酸菌を検出するための手法が限られていることが挙げられます。
    本菌はコロニー形成に数週間を要するなど、平板培養法では検出が難しく、迅速かつ定量性の高い方法が必要とされています。当研究室では1990年頃より細菌中の核酸や生理活性などを可視化し検出するバイオイメージング法により、迅速・簡便かつ高精度に環境中の生菌数(生きている細菌数)を測定しています。その方法の一つである蛍光活性染色法(文献2, 3)は、医薬品製造用水や透析液、血小板製剤、また飲食品中の細菌検出にも利用可能であり(文献4, 5, 6, 7, 8)、日本薬局方に参考情報「蛍光染色法による細菌数の迅速測定」として収載されています(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/yakkyoku/)。
    そこで水環境中の生きている抗酸菌を選択的に検出するための蛍光二重染色法を開発しました(文献9)。本方法は抗酸菌の細胞壁成分であるミコール酸を特異的に染色する蛍光試薬オーラミンと、細胞の呼吸活性の指示薬である蛍光性テトラゾリウムで二重染色を行うものであり、呼吸している抗酸菌を約1時間で検出できます。現在、複数種の非結核性抗酸菌に対する特異性を評価しており、非結核性抗酸菌症の代表的な原因菌であるMycobacterium aviumの定量が可能であることを確認しています。本法を高精度な定量的PCR法と併用することにより、生活環境における非結核性マイコバクテリウムの動態を明らかにでき、非結核性抗酸菌症の予防に貢献できるものと期待しています。

文献
1. Rapid enumeration of active Legionella pneumophila in freshwater environments by the microcolony method combined with direct fluorescent antibody staining. T. Baba, N. Inoue, N. Yamaguchi, M. Nasu. Microbes Environ., 27: 324-326 (2012)
2. Flow cytometric analysis of bacterial respiratory and enzymatic activity in the natural aquatic environment. N. Yamaguchi, M. Nasu. J. Appl. Microbiol., 83: 43-52 (1997)
3. Rapid in situ enumeration of physiologically active bacteria in river waters using fluorescent probes. N. Yamaguchi, T. Kenzaka, M. Nasu. Microbes Environ., 12: 1-8 (1997)
4. 16S ribosomal DNA-based analysis of bacterial diversity in purified water used in pharmaceutical manufacturing processes by PCR and denaturing gradient gel electrophoresis. M. Kawai, E. Matsutera, H. Kanda, N. Yamaguchi, K. Tani, M. Nasu. Appl. Environ. Microbiol., 68: 699-704 (2002)
5. Bacterial population dynamics and community structure in a pharmaceutical manufacturing water supply system determined by real- time PCR and PCR-denaturing gradient gel electrophoresis. M. Kawai, J. Yamagishi, N. Yamaguchi, K. Tani, M. Nasu. J. Appl. Microbiol., 97: 1123-1131 (2004)
6. Rapid monitoring of bacteria in dialysis fluids by fluorescent vital staining and microcolony methods. N. Yamaguchi, T. Baba, S. Nakagawa, A. Saito, M. Nasu. Nephrol. Dial. Transplant., 22: 612-616 (2007)
7. Rapid and sensitive detection of viable bacteria in contaminated platelet concentrates using a newly developed bioimaging system. Y. Motoyama, N. Yamaguchi, M. Matsumoto, N. Kagami, Y. Tani, M. Satake, M. Nasu. Transfusion, 48: 2364-2369 (2008)










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