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活性物質の標的分子の解析

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背景


  多彩な化学構造と強力な生物活性を有する活性天然物は、医薬品やそのシーズとして大きく貢献してきています。一方で、これまで見出された数多くの活性天然物の大半は標的分子が明らかにされていないことから、医薬品やそのシーズとして開発されたもの、あるいは生体機能解析のための分子プローブとして利用されているものはごく一部に過ぎないのも事実です。活性物質の標的分子を明らかにするための簡便かつ一般性の高い手法が確立されれば、こうした現状を打破し、新たな創薬ターゲットや、未知の細胞内シグナル伝達機構の解明にもつながるような知見を次々と得られる可能性があります。
  こうした背景下、昨年度より新学術領域研究「天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御」が発足しております。私たちも計画班として研究に参画し、以下に示す様々なアプローチを用いて、見いだした化合物の作用メカニズムを解析するとともに、より一般性の高い新たな手法の確立に向けた検討を行っております。

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ゲノムDNAライブラリーを利用する抗菌物質の標的分子解析


 W.R. Jacobs Jr.博士らは、抗結核剤イソニアジドの標的分子の解析過程で、イソニアジドの標的分子と予想されたEnoyl-Acp reductaseをコードするinhA遺伝子を高発現する形質転換株を作製し、これがイソニアジド耐性になることを示しており、実際に我々が作製したinhA遺伝子の高発現株もイソニアジド耐性を示しました。またこのことは、抗菌物質に対して耐性を与える遺伝子を明らかにすることが、その標的分子の解明に繋がることを示唆しています。
 私たちは、「抗菌物質の標的分子の高発現形質転換株は、その抗菌物質に対して耐性を示す。」という考えのもと、ゲノムDNAライブラリーを利用する抗菌物質の標的分子解析法を確立しています。

サンプル

 ここでは潜在状態の結核菌にも有効な、大環状アルカロイドhalicyclamine Aの標的分子の解析を行った例を示しました。
 すなわち私たちは、Mycobacterium bovis BCGのゲノムDNAライブラリーを調製し、これで形質転換することによりランダムにM. bovis BCGの遺伝子を発現するM. smegmatis形質転換株を約4,000株作成しました。 そしてこの中からhalicyclamine Aに耐性を示す形質転換株をスクリーニングし、2株(BLi_13株とBLi_15株)のhalicyclamine A形質転換株を得ることに成功しました。

サンプル


  得られたhalicyclamine A耐性の形質転換株に含まれるM. bovis BCG株由来のゲノム配列を調べた結果、halicyclamine Aに耐性を付与する遺伝子はM. bovis BCG株ゲノムの2920.549 kbから2933.210kb(12.6 kb)の間に存在することが示唆されました。そこで次に我々は、この領域を6つの領域に分け、発現ベクターにクローニング後、これでM. smegmatis形質転換株を作製しました。そして、halicyclamine Aに耐性となる形質転換株を調べた結果、S4領域を発現させた形質転換株のみが、halicyclamine Aに耐性を示すことが明らかとなりました。さらに、S4領域に含まれる4つの遺伝子をぞれぞれ高発現する形質転換株を作成し、halicyclamine Aに耐性を示す形質転換株を調べた結果、最終的にBCG2664というdedAファミリーに属する膜タンパク質を高発現した場合にのみhalicyclamine Aに耐性を示すことが明らかとなりました。またこれらの結果から、halicyclamine Aの標的分子は、BCG2664遺伝子の翻訳タンパク質であることが強く示唆されました。

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プローブ分子を用いた標的分子解析


 活性天然物の標的分子を解析する最も直接的な方法の一つは、活性天然物由来のプローブ分子を合成し、それに特異的に結合する分子を捕捉・同定する手法です。私たちは、プローブ分子の高機能化、合成の簡略化に向けて新たな手法の開発を目指すとともに、その手法を用いて、見出した活性天然物の標的分子同定を検討しています。
  最近私たちは、活性物質由来のプローブ分子の適切な位置にボロン酸基を導入すると、その標的分子との親和性が大きく向上することを見出しています。ルイス酸性の高いボロン酸基が標的分子表面のアミノ酸残基と相互作用することで親和性が向上していると考えられます。モデル実験として、生体内ペプチドglutathione由来のプローブ分子を用いて、標的分子であるGSTの捕捉を検討した例を示しました。ボロン酸基の導入により標的分子の捕捉能が最大で2倍近く向上しています。

サンプル

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