天然物創薬学分野の研究

 天然薬用資源から見出される二次代謝産物は、医薬シーズとして魅力的な化合物群と位置付けられており、実際に、現在臨床で使用されている医薬品の25%は、天然薬用資源由来の二次代謝産物またはそれをもとに合成された誘導体です。特に海綿などの底生海洋生物や海洋由来微生物は、陸上とは異なる特殊な環境で生存していることから、薬用植物や陸棲の微生物とは異なる代謝経路を利用して、新奇な化学構造を持つ二次代謝産物を作り出します。
 私たちは、海洋薬用資源を主な探索資源として、各種難治性疾患に対する新規医薬シーズの創出と新たな創薬標的の開拓を目的に研究を進めています。

天然物創薬学分野の研究

研究課題

1)海洋薬用資源ライブラリーの構築

 私たちは、インドネシアの大学や研究所と共同で、底生海洋生物の抽出エキスや海洋由来微生物の培養抽出物の作成とライブラリー化を進めています。また、最近、ブルネイやベトナムの大学や研究所とも天然薬用資源に関する共同研究を開始しました。さらに私たちは、海洋由来微生物の培養抽出物に含有される化合物の多様性拡張を目的に、海洋由来微生物が保有し、通常の培養条件では発現しない休眠二次代謝産物生合成遺伝子を活性化する方法についても研究しています。

2)医薬シーズ探索のための新規評価系構築と海洋薬用資源からの新しい医薬シーズの探索

 世界中の研究者により様々な疾患に対する病態解析が進められており、その成果が、学術論文や国内外の学会で報告されています。私たちは常にこのような最新の情報を取り入れ、がん、感染症など各種難治性疾患に有効な医薬シーズを見出すための評価系(スクリーニング系)構築を行い、独自に保有する海洋薬用資源ライブラリーから医薬シーズ探索を行なっています。

3)活性天然物の作用機序および標的分子解析

 見出した活性天然物を医薬リードとして展開していくためには、その作用機序や標的分子(結合タンパク質)を明らかにする必要があります。また、標的分子解析は、新しい創薬標的の開拓へと繋がる重要な研究でもあります。私たちは、生物学、生化学、分子生物学、ケミカルバイオロジーやケミカルジェネティクスの手法をフルに活用して、見出した活性天然物の作用機序および標的分子解析を行なっています。

4)活性天然物の全合成、アナログ合成による構造活性相関解析とリード化合物の創製

 探索研究により見いだされる活性天然物の多くはごく微量であり、化合物の供給には有機合成が必要となります。私たちは、見出した活性天然物の大量供給を目指した全合成、見出した活性天然物をリード化合物として展開して行くための、アナログ化合物合成と構造活性相関を進めています。

研究体制

 研究室では、探索グループと合成グループに分かれて研究を行っており、相互に連携しながら、研究目標の達成に向けて日々実験を行っています。研究室を巣立った卒業生が、最新の有機化学と生化学や分子生物学の知識・技術を持って、世界の第一線で活躍してくれることを願い、またその様に成長してくれるよう指導しています。
 決して楽しい事ばかりではないかもしれません。しかし一つ一つ現れる壁を乗り越えることにより成長します。実験が好きで天然物創薬に興味があり、私たちと共に頑張れるガッツある学生さんを歓迎します。

<探索グループ>

 探索グループでは、新規医薬シーズ探索のための評価系構築とそれを用いた活性天然物の探索研究を行います。底生海洋生物の抽出エキスや海洋由来微生物の培養抽出物から、生物活性を指標にして化合物を単離精製し、NMR等の分析により化学構造を決定します。
見出した活性天然物については、生物学、生化学、分子生物学、ケミカルバイオロジーやケミカルジェネティクスの手法を駆使して、作用メカニズムや標的分子を解明する研究へと展開させます。医薬シーズへの展開が見込まれる化合物については実験動物を用いたin vivo試験も行います。

探索グループ 探索グループ

<合成グループ>

 探索研究により見いだされる活性天然物の多くはごく微量であり、化合物の供給には有機合成が必要となります。合成グループでは、最新の有機合成化学を利用して、探索グループが見出した活性天然物の全合成を行ったり、アナログ化合物の合成研究によって構造活性相関を解析し、実用的な医薬リード化合物の創製を目指した検討を行います。また、見出した活性天然物の標的分子を解明するために、活性物質由来のプローブ分子を合成し、標的タンパク質の同定を目指した検討も行っています。

合成グループ 合成グループ

研究生活

 研究室では、希望に合わせて探索グループもしくは合成グループのいずれかに所属し、担当教員や先輩学生の指導のもと、与えられた研究テーマに沿って実験を進めていきながら、有機化学、天然物化学、生化学や分子生物学の知識・技術を習得していくことが生活の中心になります。定期的に研究報告やセミナーを行うことで、研究を着実に進めていけるとともに、プレゼンテーション能力を身につけていくよう促しています。

<グループミーティング>

 約2週間おきに、グループごとに集まり、各自の研究の進捗状況や今後の計画などを報告し、全員でディスカッションを行います。生の実験データをもとに密な議論を行うことで、気づかなかった問題点が浮かび上がったり、逆に新たなアイデアが生まれたりすることにも繋がります。

<コロキウム>

 コロキウムは、学会発表形式で自分の研究成果を研究室員全員の前で報告する会です。研究成果をまとめて、初めて聞く人にも理解してもらえるよう工夫して発表することを通して、就職活動などでも必要になるプレゼンテーション能力を養うことも目的の一つです。

<セミナー>

 セミナーは、研究室で進めている研究課題に関連する、最新の研究報告を勉強し、研究室員全員の前で紹介する会です。セミナーは、研究課題に関する最新の知識の習得やプレゼンテーション能力を養うことだけではなく、英文読解力の向上や原著論文の執筆方法を理解することも目的としています。

<学会発表>

 学会発表は、自身の研究成果を発表する場であるだけではなく、参加者とのディスカッション、情報交換や交流を通して、人脈を広げ、さらに研究を進めるための刺激を得ることができる場です。私たちの研究室では、研究成果を挙げた学生さんには、学年や国内外を問わず積極的に学会に参加して、研究成果を発表してもらっています。

大阪大学大学院 薬学研究科

天然物創薬学分野

〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1−6

Laboratory of Natural Products for Drug Discovery,

Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University

1-6 Yamadaoka, Suita 565-0871

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