ライン

海洋薬物資源からの新規医薬シーズの探索研究

ライン

概要


 当研究室では現在、以下に示すように、主にガンや結核といった難治性疾患に着目した、新規活性物質の探索研究を行っています。副作用の少ない新たな作用メカニズムを有する医薬シーズを見いだすべく、独自のバイオアッセイ系を構築し、海洋生物のエキスや微生物の代謝物から生物活性を指標にして化合物を単離精製し、NMR等の分析により化学構造を決定します。見いだした活性物質については、分子生物学や遺伝子工学等の手法を駆使して、作用メカニズムを詳細に解明するための研究を展開します。医薬シーズへの展開が見込まれる化合物については実験動物を用いたin vivo試験も行います。


抗がん剤シーズの探索 血管新生阻害物質、低酸素環境選択的増殖阻害物質、がん転移抑制物質、細胞周期阻害物質
抗結核薬シーズの探索 潜在状態の結核菌に対する抗菌物質、バイオフィルム形成阻害物質
創薬を指向したin vivoスクリーニング メダカ尾ヒレの再生を指標とする探索研究

ライン

抗がん剤シーズの探索研究


<背景>

  がんは日本人の死因第一位の疾患であり、抗がん剤に対する副作用の問題などから、今なお新たな抗がん剤の創成が求められています。新たな作用メカニズムを有する副作用の少ない抗がん剤シーズを見いだすべく、私たちは、細胞レベルでの表現形を指標としたスクリーニング系を独自に構築し、これを用いた探索研究を行うとともに、分子生物学や遺伝子工学の手法を用いて、見いだした化合物の作用メカニズムを解析することで、新たな抗がん剤創薬ターゲットの発見や、未知の細胞内シグナル伝達機構の解明にもつながるような研究を目指しています。


<血管新生阻害物質の探索>

 固形がんは、既存の血管から新しい血管を誘引し、栄養分や酸素を得て増殖するとともに、血管系に侵入して別の場所へ転移します。そこで、血管新生を阻害する物質は、がんの成長を特異的に抑制することができる、新しい抗がん剤として期待されています。私たちは、既存の薬剤とは異なる作用メカニズムを有する化合物も含めて網羅的に活性物質を探索する目的で、血管新生のすべての過程に関わっており、中心的な役割を担っている血管内皮細胞に着目し、血管内皮細胞の増殖を選択的に阻害する化合物の探索を行っています。

サンプル

 私たちはこれまでに、血管内皮細胞選択的な増殖阻害活性物質として以下に示すような化合物を見いだしています。なかでも、インドネシア産海綿Corticium simplexから発見したステロイドアルカロイドcortistatin類は、非常に強力かつ高選択的に血管内皮細胞の増殖を阻害することから、次世代の新しい抗ガン剤のリード化合物として、非常に期待される化合物です。
 しかし、cortistatin類は海綿からごく微量しか得られないため、医薬シーズへの展開には有機合成による供給が不可欠です。そこで私たちは、cortistatin類の全合成研究を行うとともに、構造活性相関の知見をもとに、短工程で合成可能な活性リード化合物の設計・合成についても研究を進めています。

サンプル


〜これまでに単離した血管新生阻害物質〜

サンプル



ライン

<低酸素環境選択的増殖阻害物質の探索>

 近年、腫瘍内部の微小環境におけるがん細胞の応答や代謝が、がんに対する新しい薬剤標的として注目されています。特にがん微小環境の特徴の1つである低酸素環境のがん細胞の性状に関してはよく研究が進んでおり、低酸素環境下で発現誘導される転写因子hypoxia inducible factor-1α (HIF-1α)が、血管新生の促進や低酸素環境におけるがん細胞の代謝変化に寄与していることが知られています。しかしながら、HIF-1αまたはその関連分子以外の研究は少なく、がん細胞の低酸素適応機構の全容については明らかになっていないのが現状です。
 私たちの研究グループでは、がん細胞の低酸素適応に関わる分子全体を標的とできる評価系を構築し、見出した化合物の医薬シーズとしての展開、そして、その作用メカニズム解析を通して、がん細胞の新しい低酸素環境適応機構を明らかにすることを目的に研究を進めています。

サンプル


 独自に保有する、底生海洋生物の抽出エキスや海洋由来微生物の培養抽出物ライブラリーをスクリーニングした結果、私たちはこれまでに、酸素濃度1%の低酸素環境選択的にヒト前立腺がん細胞DU145の増殖を抑制する化合物として、インドネシア産海綿Dactylospongia elegansから、フラノセスタテルペンfurospinosulin-1を見出しています。本化合物についてはin vivoでも抗腫瘍活性が認められたことから、有機合成による医薬シーズとしての展開や作用メカニズムの解析など、幅広い研究を展開しています。

Furospinosulin-1:詳細ページへ

サンプル



ライン

<がん転移抑制物質の探索>

 がんの病態の特徴の1つに転移が挙げられ、がん転移が予後に大きな影響を与えることはよく知られています。上皮系がん細胞の血行性転移の過程は、下図に示すようにEMT、遊走、浸潤、血管内皮細胞への接着、METの大きく5つの過程に分けられ、これらの過程のいずれかを阻害することができれば、がん転移を抑制できると考えられています。私たちの研究室では、これら各ステップの阻害剤が探索可能な評価系の構築と構築した評価系を利用する活性天然物の探索を進め、がん転移を抑制可能な新しい医薬シーズの開拓を目指した研究を行っています。
 私たちはこれまでに、インドネシア産のStylissa属海綿から、stylissamide Xと命名した構造中に多くのプロリンを含む新規環状ペプチドを発見しています。この化合物は、増殖因子EGFで刺激したヒト子宮頸部がん細胞HeLaの遊走を、細胞毒性を示さない0.1 µMから阻害できることを見出しています。

サンプル

サンプル



ライン

<細胞周期阻害物質の探索>

 がん細胞と正常細胞の大きな違いの1つに、がん細胞は、DNA傷害を感知するチェックポイント機構に異常があることが挙げられます。このことから、がん細胞特異的に細胞周期を停止させることができる化合物は、副作用の少ない抗ガン剤として使用することが期待できます。下の図は、細胞周期の制御機構(チェックポイント機構)を少し詳しく示したものです。ガン細胞の多くは、ガン抑制因子p53に変異を持っており、p53の下流のシグナルが不活性な状態にあります。またこのことが、ガン細胞の無限増殖の大きな原因であることが知られています。 このことから、p53の下流に位置するp21の発現を誘導できる低分子化合物は、新しい抗ガン剤として期待できます。
 スクリーニングには、p21のプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を持つプラスミドで形質転換したMG63細胞(京都府立医大・酒井教授より分与)を利用し、サンプルを添加することにより、ルシフェラーゼ活性が上昇する化合物を探索しています。

サンプル

サンプル

〜これまでに単離したp21プロモーター転写活性化物質〜

サンプル


ライン


ライン


抗結核薬シーズの探索研究


<背景>

 結核は現在でも年間約200万人が死亡している感染症で、HIVとの共感染による患者数の増加や多剤耐性菌の出現が大きな問題となっています。結核菌感染は他の感染症と異なり、感染しても宿主の免疫機構により多くの場合病気の発症は抑制されます。しかし一部の菌は、感染部位で形成されるgranuloma内で長期に渡り潜在し、免疫力の低下をきっかけに発症するという特徴を持ちます。またこのような潜在状態の結核菌の存在が、最低半年という長期の化学療法が必要な要因と考えられており、次世代の抗結核薬には、潜在状態の結核菌にも有効であり、短期間で治療できることが必要条件となっています。

サンプル画像


<抗潜在性結核物質の探索>

 私たちの研究グループは、granuloma内が低酸素環境であり、潜在状態の結核菌は抗結核薬であるイソニアジドに低感受性となるという報告をもとに、0.2%の低酸素条件で検定菌を培養することにより潜在状態を誘導し、イソニアジドに抵抗性を示す条件下でも抗菌活性を示す化合物の探索を行っています。
これまでに、海綿の抽出エキスおよび海洋由来微生物の培養物から、下図に示すような活性物質を見いだすとともに、 ゲノムDNAライブラリーを利用して、これら抗菌物質の標的分子についても明らかにしています。
標的分子の解析のページを参照

サンプル画像


<これまでに単離した抗潜在性結核物質>

サンプル


抗潜在性結核物質の探索:詳細ページへ


ライン

<Biofilm形成阻害物質の探索>

 多くの病原微生物が産生する能力を持つbiofilmは、多糖を主成分とする膜状物質で、微生物の付着のための足場、病原因子の産生や増殖調整のための微生物間のコミュニケーションの場となるだけでなく、抗菌剤や宿主免疫システムからの防御機構として機能すると考えられています。 これらのことから、病原微生物のbiofilm形成を阻害する化合物は、これまでの医薬品とは異なる作用メカニズムを持つ医薬リードとして有用であると考えられます。また、biofilm形成阻害物質の標的分子の解明は、未だ未解明な部分の多い病原微生物のbiofilm形成機構の解明に大きく寄与することが予想されます。
 私たちの研究室では、Mycobacterium属細菌をモデル微生物として、biofilm形成阻害物質スクリーニングのための評価系を構築し、海綿などの底生海洋生物の抽出エキスおよび海洋由来微生物の培養抽出物ライブラリーを探索源にスクリーニングを行っています。

biofilm形成阻害物質の探索:詳細ページへ

サンプル画像

ライン


ライン

創薬を指向したメダカを利用するin vivoスクリーニング

  これまでの医薬シーズの探索では、酵素、微生物、培養細胞などを利用するin vitroでのスクリーニング後、見出した活性物質をマウスなどでの動物実験で評価し、有望な化合物を医薬シーズとして利用してきました。このため、動物実験の段階で効果を示さない化合物や毒性の高い化合物が選択される場合も多くあったのが実状です。このことから、直接in vivoでも有効な活性物質を見出すことができる評価系は、医薬シーズの探索時間を短縮し、コストの削減にも繋がると考えられます。
 私たちの研究室では、産業技術総合研究所(弓場俊輔先生、川崎隆史先生)と大阪大学医学系研究科(藤堂 剛先生)と共同で、飼育や個体の供給が容易であり、形質転換や形質導入技術が確立されている魚類メダカを利用し、in vivoでも有効な活性物質を直接見出すことができる評価系の構築と活性物質の探索研究を進めています。

サンプル

ライン


Copyright (C) 大阪大学大学院薬学研究科天然物化学分野 All Rights Reserved.