![]()
![]()
がんは日本人の死因第一位の疾患であり、抗がん剤に対する副作用の問題などから、今なお新たな抗がん剤の創成が求められています。新たな作用メカニズムを有する副作用の少ない抗がん剤シーズを見いだすべく、私たちは、細胞レベルでの表現形を指標としたスクリーニング系を独自に構築し、これを用いた探索研究を行うとともに、分子生物学や遺伝子工学の手法を用いて、見いだした化合物の作用メカニズムを解析することで、新たな抗がん剤創薬ターゲットの発見や、未知の細胞内シグナル伝達機構の解明にもつながるような研究を目指しています。
![]()
固形がんは、既存の血管から新しい血管を誘引し、栄養分や酸素を得て増殖するとともに、血管系に侵入して別の場所へ転移します。そこで、血管新生を阻害する物質は、がんの成長を特異的に抑制することができる、新しい抗がん剤として期待されています。私たちは、血管新生において中心的な役割を担っている血管内皮細胞に着目し、血管内皮細胞の増殖を選択的に阻害する化合物の探索を行っています。

私たちはこれまでに、血管内皮細胞選択的な増殖阻害活性物質として以下に示すような化合物を見いだしています。なかでも、インドネシア産海綿Corticium simplexから発見したステロイドアルカロイドcortistatin類は、非常に強力かつ高選択的に血管内皮細胞の増殖を阻害することから、次世代の新しい抗ガン剤のリード化合物として、非常に期待される化合物です。
しかし、cortistatin類は海綿からごく微量しか得られないため、医薬シーズへの展開には有機合成による供給が不可欠です。そこで私たちは、cortistatin類の全合成研究を行うとともに、構造活性相関の知見をもとに、短工程で合成可能な活性リード化合物の設計・合成についても研究を進めています。

![]()
近年、腫瘍内部の微小環境におけるがん細胞の応答や代謝が、がんに対する新しい薬剤標的として注目されています。特にがん微小環境の特徴の1つである低酸素環境のがん細胞の性状に関してはよく研究が進んでおり、低酸素環境下で発現誘導される転写因子hypoxia inducible factor-1α (HIF-1α)が、血管新生の促進や低酸素環境におけるがん細胞の代謝変化に寄与していることが知られています。しかしながら、HIF-1αまたはその関連分子以外の研究は少なく、がん細胞の低酸素適応機構の全容については明らかになっていないのが現状です。私たちの研究グループでは、がん細胞の低酸素適応に関わる分子全体を標的とできる評価系を構築し、見出した化合物の医薬シーズとしての展開、そして、その作用メカニズム解析を通して、がん細胞の新しい低酸素環境適応機構を明らかにすることを目的に研究を進めています。

独自に保有する、底生海洋生物の抽出エキスや海洋由来微生物の培養抽出物ライブラリーをスクリーニングした結果、私たちはこれまでに、酸素濃度1%の低酸素環境選択的にヒト前立腺がん細胞DU145の増殖を抑制する化合物として、インドネシア産海綿Dactylospongia elegansから、フラノセスタテルペンfurospinosulin-1を見出しています。本化合物についてはin vivoでも抗腫瘍活性が認められたことから、有機合成による医薬シーズとしての展開や作用メカニズムの解析など、幅広い研究を展開しています。
![]()
がんの病態の特徴の1つに転移が挙げられ、がん転移が予後に大きな影響を与えることはよく知られています。上皮系がん細胞の血行性転移の過程は、下図に示すようにEMT、遊走、浸潤、血管内皮細胞への接着、METの大きく5つの過程に分けられ、これらの過程のいずれかを阻害することができれば、がん転移を抑制できると考えられています。私たちの研究室では、これら各ステップの阻害剤が探索可能な評価系の構築と構築した評価系を利用する活性天然物の探索を進め、がん転移を抑制可能な新しい医薬シーズの開拓を目指した研究を行っています。

私たちはこれまでに、インドネシア産のStylissa属海綿から、stylissamide Xと命名した構造中に多くのプロリンを含む新規環状ペプチドを発見しています。この化合物は、増殖因子EGFで刺激したヒト子宮頸部がん細胞HeLaの遊走を、細胞毒性を示さない0.1 µMから阻害できることを見出しています。

![]()
がん細胞と正常細胞の大きな違いの1つに、がん細胞は、DNA傷害を感知するチェックポイント機構に異常があることが挙げられます。このことから、がん細胞特異的に細胞周期を停止させることができる化合物は、副作用の少ない抗ガン剤として使用することが期待できます。下の図は、細胞周期の制御機構(チェックポイント機構)を少し詳しく示したものです。ガン細胞の多くは、ガン抑制因子p53に変異を持っており、p53の下流のシグナルが不活性な状態にあります。またこのことが、ガン細胞の無限増殖の大きな原因であることが知られています。 このことから、p53の下流に位置するp21の発現を誘導できる低分子化合物は、新しい抗ガン剤として期待できます。

スクリーニングには、p21のプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を持つプラスミドで形質転換したMG63細胞(京都府立医大・酒井教授より分与)を利用し、サンプルを添加することにより、ルシフェラーゼ活性が上昇する化合物を探索しています。


![]()