ヒトの健康確保を考究しようとする薬学において、『毒性学:Toxicology』は、低分子有機化合物/蛋白質/遺伝子等に由来した医薬品のみならず、医薬部外品・化粧品・食品・食品添加物・農薬・環境(汚染)物質・産業(廃棄)物質・ハイテク材料等に含まれている生体異物(Xenobiotics)に関して、安全性を科学的に追求し、“国民の健康確保と向上”や、環境保護をも含めた“安心・安全な社会の確立”、“産業界の責任ある発展”に寄与すること、またその人材(薬学人)を育成していくことを目指した学問です。従って薬学における『毒性学』に対し、社会は、医薬品や種々化学物質等に起因した有害事象の調査やその毒性発現メカニズムの探求のみならず、1)その開発段階からヒト・環境への影響(安全性)を高確度に予測し、研究開発や社会受容の促進を積極的に支援していくこと、2)意図的あるいは非意図的な曝露を既に避け得ないものに関しては、ヒト・環境への影響(安全性)を評価し、その結果を科学的根拠に基づいた使用基準・指針の策定に展開していく等、安全性を高度に確保していくこと、3)薬害・公害等の問題発生に対しては、有効な対処方法・解毒法・治療法を確立していくこと等、ヒトの健康と環境保全に寄与していくことを期待しています。昨今の薬・食・環境に対する安全への懸念や健康への関心の高まりも相俟って、ナノテクノロジーやゲノム創薬・プロテオーム創薬といった21世紀テクノロジーにより産み出されてくる医薬品や種々化学物質には、安心・安全であることがこれまでに以上に強く求められ、『毒性学』そしてそれを学んだ薬学人への期待は、益々加速度を増していくものと思われます。以上の観点から本分野では、医薬品あるいはその開発途上品、新旧の化学物質等の安全性予測・評価・確保に関する研究を推進しており、健全な社会・安全な環境の構築への貢献を目指しています。また本研究の過程で、分子細胞生物学や遺伝子工学、蛋白質工学等の手法を駆使することで、環境中に存在している種々化学物質等の毒性発現(疾患の発症・悪化)のメカニズム追求や生体が本来兼ね備えている生体防御機構の解明、その解毒法の開発に取り組んでおり、以下にナノマテリアルの安全性(NanoTox;ナノトックス)研究を一例に紹介させて頂きます。
ナノマテリアルは、ナノサイズであるが故の、表面積・電子反応性・光反応性・熱反応性の増大等に基づいた種々の有用機能を発揮し得るため、夢の素材として、各方面に様々な恩恵をもたらすものと期待されています。しかしナノマテリアルは、従来までのマイクロマテリアルとは異なった体内動態/環境動態特性を有していることも相俟って、高度な機能が逆に予想すらできないリスクを産み出し得る等、2面性を呈してしまうことが危惧され始めています。既に上市されている化粧品や食品の多くに、ナノマテリアルが含まれているように、ナノテクノロジー研究の多くは「実用化」ばかりが先行している現状を考えると、意図的・非意図的な曝露は既に避け得ないうえ、ナノマテリアルを利用している多くの関連産業の命運をも担っているため、その安全性評価と確保に向けた研究は極めて大きな社会的意義と影響力を持つものと考えられます。また有害事象を予測できる安全性バイオマーカーの同定は、種々ナノマテリアルの開発段階から上市に至るまで、安全性の確保という点で多大に寄与するものと期待されます。以上の背景から我々は、種々ナノマテリアルの免疫毒性、生殖発生毒性、遺伝毒性、発がん性等の評価およびその基盤技術の開発と共に、トキシコキネティクスやイメージング、トキシコプロテオミクス等を融合することで、安全性(リスク)バイオマーカー(蛋白質・遺伝子)の探索と安全性予測・評価技術の確立、そして安全性に優れたナノマテリアルの開発支援を進めています。また同様の最先端技術を駆使し、黄砂等の環境因子の安全性(毒性発現;疾患の発症・悪化)バイオマーカーの探索とその有効活用に向けた取り組みを試みると共に、心毒性・肝毒性・腎毒性・神経毒性等を対象に、医薬品開発・評価に必須となる創薬バイオマーカー(安全性バイオマーカー)の同定と薬害問題の解決に向けた研究を推進しています。

【下記の研究内容の詳細は現在作製中です。(近日公開予定)】
  1. 生体異物に対する生体の応答および防御機構の解明と、解毒法の開発
  2. 化粧品・食品およびその含有成分の安全性評価とその手法開発
  3. トキシコキネティクス・トキシコプロテオミクス等によるナノマテリアル等の安全性研究(NanoTox)
  4. 高機能化医薬・バイオ医薬品等の安全性確保のための創薬バイオマーカーの探索
  5. 種々環境因子の生殖発生毒性・免疫毒性・神経毒性の発現(疾患の発症・悪化)メカニズムの解析








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