細菌やウィルスが引き起こす感染症の新規治療薬開発にむけて、大阪大学微生物病研究所や大阪府公衆衛生研究所と共同研究体制を組み、 ①毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic Escherichia coli: ETEC)、 ②ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、 ③腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)、 ④C型肝炎ウィルス、⑤デングウィルスなどの各病原体に関して、 その感染メカニズムおよび病原性発現メカニズムのに関わるタンパク質の構造解析を行っている。

Colonization Factor Antigen III (ETEC)

毒素原性大腸菌(ETEC)は、発展途上国における下痢症の主な原因菌であり、飲食物を介してヒトの腸管内に到達し、 増殖した後、腸管毒素エンテロトキシンを産生することによりコレラ様の下痢を引き起こすことが知られている。 この病原性の発現には、第一のステップとして腸管上皮細胞への定着が必須であり、 その定着因子(Colonization Factor Antigen: CFA)としてCFA/I、CFA/II、CFA/IIIなどが報告されている。 すなわち、これらの定着因子の作用機序を解明し、その機能を阻害することができれば、新たな感染症治療薬の開発につながる。 我々の研究室では、線毛性の定着因子であるCFA/IIIに着目し、その定着メカニズムの解明へ向けた研究を行っている。 CFA/IIIを構成する遺伝子群であるcofオペロンは14個の遺伝子で構成されており、菌体表面にIV型に分類される細長い線毛を形成する。 これまでの研究から、14個の遺伝子で構成されるcofオペロンのうち、主要な線毛構成タンパク質(メジャーピリン)をコードする遺伝子としてcofAが同定され、 さらに、発現量の低い線毛構成タンパク質(マイナーピリン)をコードするものとしてcofBが同定されているが、 これらに対応する各ピリンの立体構造やIV型線毛の形成機構の詳細は未だ明らかにされていなかった。 近年、我々はメジャーピリンであるCofAに関して、タンパク質に内在するシステインやメチオニン由来の硫黄原子の異常分散効果を利用した 短波長異常分散(Sulfur-Single wavelength Anomalous Dispersion: S-SAD)法を利用することで、 X線単結晶構造解析法による原子レベルでの高分解能(0.9Å)構造決定に成功した。 また、得られた立体構造と類似タンパク質について得られた電子顕微鏡像から計算される低解像度の電子密度マップを用いることで、C FA/IIIの線毛モデルを構築することに成功した。 現在は、マイナーピリンCofBをはじめとして、CFA/IIIを構成する他のタンパク質の立体構造情報を基盤とした機能解析を進めている。