リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)は、哺乳動物の中枢神経系に多く発現し、 脳内でPGH2から睡眠誘発に関与するPGD2への異性化反応を触媒している酵素で、 副作用のない新たな睡眠薬開発のキーとなると期待されている。 また、L-PGDSは疎水性低分子輸送に関与するリポカリンファミリーに属するが、 レチノイドやビリベルジン等の様々な疎水性低分子と結合でき、 脳内の疎水性低分子の輸送タンパク質及びスカベンジャーとしての役割も担っていると考えられている。 我々はこのように興味深い2つの機能を示すL-PGDSのリガンド認識機構を解明するため、その立体構造を決定した。

L-PGDSの立体構造はリポカリンファミリーに特有の8本のβストランドよりなるβバレル構造を形成していた。 βバレル内部には疎水性及び親水性の2つのポケット領域を含む 他のリポカリンファミリー蛋白質では見られない大きなcavityが存在していた。 レチノイン酸またはPGD2との結合によるNMRシグナルの変化より複合体のモデルを構築したところ、 レチノイン酸は疎水性ポケット領域に、PGD2 またはPGH2は親水性ポケット領域に結合することが示された。 さらにL-PGDSの活性残基であるCys65のチオール基はPGH2に求核攻撃を行うのに適した位置に存在していた。 これらの結果よりL-PGDSの幅広いリガンド認識機構が明らかとなった。