皮膚や骨などを構成する主要な蛋白質であるコラーゲンは、左巻きへリックス構造をとるポリペプチド鎖が三本寄り集まって全体でゆるい右巻き構造をとっている。 このようなユニークな構造はトリプルヘリックス構造と呼ばれ、コラーゲン繊維に必要な強度と弾力性を生み出している。 コラーゲンは、古くから“膠”と呼ばれる接着剤やゼラチンとして広範な用途に用いられてきたが、 近年、細胞外マトリックスの主要成分として様々なシグナル伝達経路に関与することが明らかになってきたことから、 再生医療などの分野におけるバイオマテリアルとしての応用も期待されている。 しかしながら、不溶性の繊維を形成するコラーゲンの研究における取扱いの難しさから、 その立体構造や機能の詳細は未だ完全には理解されていないままであり、さらなる研究が必要である。

トリプルへリックス構造を形成するコラーゲンの三本のペプチド鎖はX-Y-Glyの繰り返し配列を持ち、 X,Yには主にプロリン(Pro)や4(R)-ヒドロキシプロリン(HypR)といったイミノ酸が占める。 HypRはコラーゲン以外の蛋白質中にはほとんど見られないアミノ酸であり、 生育温度の高い動物のコラーゲンほどHypRの含有率が高く、HypRが存在しない場合には繊維形成能が著しく減少する。 このことから、 HypRのヒドロキシル基がトリプルヘリックス構造形成反応や安定化に重要な役割を果たしていると考えられており、 高分解能のX線結晶解析などの結果により、HypRのヒドロキシル基と水和水との間に観測された水素結合が構造安定化に寄与していることが示された。 この結果を踏まえ、我々は、HypRのヒドロキシル基をヒドロキシル基とほぼ同等の原子半径であるものの水素結合形成能が低いフッ素原子に置換した4(R)-フルオロプロリン(fProR)や、 立体化学の異なる4(S)-ヒドロキシプロリン(HypS)や4(S)-フルオロプロリン(fProS)のような種々の非天然アミノ酸を含むモデルペプチドを設計・合成し、種々の手法により研究を行っている。 特に、X線結晶構造解析法およびNMR構造解析法による立体構造決定や、構造転移に伴う熱力学量の厳密な測定、 さらには熱転移前後のペプチドの水中での部分モル体積及び露出表面積の値を求めることにより算出される水和量の情報を組み合わせることで、 コラーゲンの構造構築原理および構造安定性要因を説明しようと試みている。 また、本研究室では、現在次々と明らかになってきているコラーゲンを認識するタンパク質の機能を解明する目的で、 コラーゲンとそれらタンパク質の相互作用解析にも精力的に取り組んでいる。